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「Simple is Best!」の巻

 「Simple is Best」は、シンプルなものこそ良い、というような意味でしょうか。何気に使うこの言葉も、案外深い意味だったりするかもしれんし、曖昧だったりするかもしれん。しかしこの言葉は、複雑でなく単純で良いもの、という近似したイメージをみんなが持っているように思う。良いイメージの言葉だね。

 僕も好きな言葉でよく使いますが、僕にとっては特に音楽(芸術全般かな)や仕事でのイメージが大きい。僕のモットーである「豪快かつ繊細に」に通じているし、ほとんど同じかもしれんね。ちなみに、この前、職場のアメリカ人に聞いてみたところ、そんな言葉はないって言ってましたが…、和製なんですね。そういえば何だか日本人気質がうかがえる言葉のような…(適当だ)。

 家でチャンピオンシップなどのDVDを見て思うけど、チャンプ級のやつらはあんまり小細工してない(ように見える)けどスゴイ!極端にスゴイと思うところはたいがいシンプルに感じる。直接体験では一昨年くらいBBBでのミード氏のソロだった。あれは本当に涙が出たなあ。口で説明できんけど、本当にスゴイことって、キチンと楽譜が吹けてるだけで十分だと感じた。次来た時は、何をさしおいても聴きに行ったほうがいいよ!

 さて、「豪快かつ繊細に」がモットーの井上流では、荒削り的にまずやってみることが始まりだと思っている。とにかく最初に「エイヤッ」と一歩目を踏み出す勇気を持たなくては始まらないのだ。未熟なうちは失敗したっていいのだ。好奇心があればアッサリ始められるかもしれん。

 これは土方のバイトをしていた時のアニキから学んだことだが、「最初っからコマコマとしてたらダメや。最初はおおざっぱにパーッとやってみんと」ということだ。まあこれは素人たる僕が現場でそうやるとゲンコツが飛んでくるんですが(笑)。達人はそうやって「感覚」をつかんでいっているということなのだろう、と思った。実際、そのアニキは仕事も早いし確かだ。それにパチンコも強い。男だぜ!

 これは音楽と同様の話でないかもしれないが、基本的な感じは近いものがあると思う。アニキのすごいのは、大味なだけではく「確かさ」がある、つまり「繊細さ」も兼ね揃えているところにある。大味っぽくやり始めているように見えても、ちゃんと微調整がきいているのだ。素人は形だけで荒っぽいだけだね。僕がすぐにできる話ではなかったのだ(涙)、いい仕事してるんスよ。素晴らしいぜ。

 アニキは、サクサク進めてパンパン作業をこなしていく。見た感じだと、簡単そうで自分でもできそうだし、こうこうやって結局こんなんなるっていうイメージも理解できるものだった。でも実際は前述のとおり、自分ひとりでやってみると上手くできない。そうやって、やってみて失敗から学んでいき、イメージと実際の実力との誤差を考え、修正していくものではないだろうか…。

 大事なひとつの要素は「感覚」であろう。自分の力量を知ることや自分のクセをつかむことではないだろうか。なんとなく感覚をつかみつつ、自分に技術力をつけていくこと(自分を鍛えていくという感じ)ではないだろうか。こうこう息を入れるとこんな感じの音が出る、こうやると失敗する、みたいな。技術のついた自分をコントロールするということかな。

 「感覚」を研ぎ澄ますためにはやはり、地道な稽古の積み重ねが必要なのであり、毎日のように音楽に触れ・研究すること、そして飽くなき好奇心を持つことではないだろうか!強い競争馬を作りたければ、毎日毎日、馬を見て馬のことばっかり考えてないといけない。っていう牧場長の話を聞いたことがあるぜ。自分なりの「感覚」ってものは一朝一夕にできるものではなく、努力の結晶というわけだ!みんな独自の工夫が必ずあるのだ!

 それからもうひとつ、「ビジョン」が必要ではないかと思う。駆け出しのうちは、アニキがやっている作業を見るのは大いに参考になります。それはイメージができるから!イメージしたものと自分の実際にやっていることが一致すれば、ほぼプロ級、ある意味目標達成です!ただしイメージ力が小さいとたいした演奏にならないので、この部分はもう、自分を超えた世界をいろいろ見て研究するしかない!この研究は無限だ!また余談ですが、人は最初に出会った師匠に似るというが…スランプ時や迷った時、初心にかえってアニキの仕事を見せてもらうのもまた参考になる!時々は初心にかえるのが良いと思うぞ。

 簡単にいうと語弊があるかもしれないけど、「技術力」「イメージ力」「曲に対する研究」があればグレイトな演奏の用意はできたようなものだ!

 研鑽を重ねて自分を成長させ、さらに練習を重ねて完成させたい曲が手の内に入ってくると、スーッとこういう風に演奏したら良いという筋道が自然と見えてきて、無駄や迷いのないフレーズができてくるのではないでしょうか。これはシンプルであり大きい(フレーズが長いというか、大きい音楽観が表れている感じ)。ある意味、感覚的なモノでもある。ヌヌヌーときてバーン!トゥルルー、みたいな(笑)。自分がわかればそれでよい。

 楽譜を見て1、2回目にパッと案外いいフレーズを吹けたりするんだけど、やはり研究後の演奏のほうが絶対に良い。酸いも甘いも解っているほうがいいんですよ。そして甘い演奏を期待…。個人的には感情のこもりすぎていない、想像力をかきたてられる演奏を好むという意味でもシンプルな演奏が好きだなあ。

 あと、不要な補足かもしれませんが、演奏者はいくつも複雑に考えられないと思うんですよ。1つのフレーズでも、ここはレガートでクレッシェンドしてピッチ下がるから気をつけてムームー吹かずに…といろいろ。これらの要素は練習でクリアし、舞台では、意識下にはいろいろあっても、実際には1つの演奏をするしかないと思うのですよ。できるだけシンプルにまとめられた演奏でね。

 過程でいくつもの壁があっても、それらを乗り越えてたどり着いた演奏、たくさんの微調整を終えて最終的に行き着く地点。完全に手の内に入っている演奏。それが、聴いているほうには自然でシンプルに写る。これが極意ではないだろうか!

 いちフレーズだけ見てもだめで、全体的な調和などいろいろ計算することもたくさんあります。しかし最終的に披露する演奏はひとつなので、もし演奏会までに満足のいく出来にならなかったとしても、その時点で出来る最も良い演奏を、思い切って出すことが大切だと思います。音楽家の礼儀としても!どんなに上手い人でも人間ですから、舞台の上では開き直って、エイヤッと思い切ってやってると思いますよ。意思の弱いムニャムニャとした中途半端な演奏は誰も聞きたくないぜ!

 本当にすごい(良い)演奏は、誰が聴いても良いと思うものである。アニキの仕事のように簡単そうにも見えるのである。音楽の流れが自然に流れているのであり、無駄のないシンプルな「感じ」がする。僕たちもそのほんの数分数秒の美しさ、アツイ瞬間のために出会うために練習をしているのかもしれない。ラフィネの本懐もここにあるのかもしれないと思うものである。

(2006/5/31)

Last modified:2009/11/29 16:09:00
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References:[団長コラム]